麻痺の後遺症


重症のベル麻痺・ハント症候群では、発症後6~12か月経過するとまぶたと口が一緒に動く病的共同運動、痙攣(けいれん)やひきつれなどの後遺症を残すことが少なからずみられます。特にハント症候群では重症の後遺症が残ることが多いです。

病的共同運動とは?:障害された顔面神経はゆっくりと再生していきますが、そのときに目と口が一緒に動くことが多いと、目に行く枝が間違えて口の方に伸びてしまったり、口に行く枝が目の方に伸びてしまったりします(こ れを神経の過誤再生といいます)。その結果、目をつぶると口が一緒に動いてしまったり、口を動かすと目が自然に閉じてしまったりする病的共同運動が生じる ことになります。病的共同運動は神経再生の結果として生じる後遺症なので、一度なってしまうと治すのは困難で、予防が重要です。ただし、最近では顔面痙攣 の治療に用いるボツリヌス毒素を使用して、症状を一時的に軽減させる方法が報告されています(「後遺症に対するボツリヌス療法」の項を参照してください)。

痙攣(けいれん)、ひきつれ:神経と筋肉の過度の緊張により生じます。また、表情をつくる筋肉は皮筋といって骨に付着していないのが特徴です。骨に付着している骨格筋においては、自分で筋肉を伸展(ストレッチ)することができますが、麻痺の後遺症がある皮筋においては自分で伸展(ストレッチ)することができず、筋肉のひきつれが生じやすいのです。ボツリヌス毒素を用いる治療や、両手を用いてひきつれた筋肉をストレッチするリハビリが有効なことがあります。

ワニの涙:食事をする時に麻痺側の眼から涙が出てくる後遺症です。唾液を出す神経と涙を出す神経(いずれも顔面神経の枝)との間で神経が混線状態で再生し た場合(過誤再生といいます)に生じます。残念ですが、特効的な治療はありません。欧米ではボツリヌス毒素が有効との論文が出ていますが、日本ではまだ認 められておりません。