末梢性顔面神経麻痺の治療と治癒率

顔面神経麻痺の原因が明らかな場合は、その病気の治療を行います。つまり中耳炎であれば抗生剤による治療や手術、腫瘍であれば腫瘍の切除と顔面神経の再建手術などです。以下に最も多いベル麻痺と2番目に多いハント症候群について詳しく説明します。
 原因不明のベル麻痺:薬物療法が中心となります。神経の浮腫(腫れ・むくみ)による側頭骨内での圧迫を解除することを目的としてステロイド剤を投与する ことがアメリカ神経学会の治療ガイドラインにより勧められています。単純ヘルペスウイルス1型が発症に関与していることが疑われており、抗ウイルス剤を投 与することも試みられていますが、まだ追加の臨床試験が必要な段階です。ベル麻痺は治りやすい病気で、麻痺が軽度であれば1~2か月で完全に治ります。麻 痺が高度な(全く動かない)場合でも、、完全に治癒する率は80~90%と良好です。しかし、残りの10~20%の患者さんは6~12か月経過しても顔面 の動きの左右差が残り、まぶたと口が一緒に動く病的共同運動、痙攣(けいれん)やひきつれなどの後遺症を残すこともあります。
 ハント症候群:抗ウイルス剤、ステロイド剤を点滴注射または内服します。抗ウイルス剤は発症早期にのみ効果がありますので、できるだけ早め(3日以内) に専門医を受診し治療を開始することが大切です。麻痺が軽度であれば1~2か月で完全に治ります。麻痺が高度な(全く動かない)場合、完全に治癒する率は 50~60%程度とベル麻痺に比べて著しく不良であり、後遺症を残すことも多くみられます。同時に生じためまいは1~2か月で改善しますが、聴力の障害は 完治しないこともあります。
 ベル麻痺・ハント症候群では治療を始めてすぐに回復することもありますが、多くの場合では発症1カ月を過ぎた時期から改善しはじめます。一度障害された 神経が障害された部位から徐々に再生してくるためです。よくならないからといって薬を中止したりすることは、その後の神経の再生のためにはよくありませ ん。
 また、眼が閉じないためや涙液分泌障害のため、結膜や角膜が乾燥し結膜炎や角膜炎を起こすことがあります。点眼液を使用したり、睡眠時に眼を保護するようにテープや眼軟膏を使用します。
 その他に、星状神経節ブロックという頸部に麻酔薬を注射することによって顔面の血液循環改善を図る治療方法、重度の麻痺に対して顔面神経管開放術という 手術を行って神経の圧迫・浮腫を軽減させる治療法を行うこともあります。体に侵襲を加える方法であり、また麻痺に対する有効性を科学的に検証することが難 しい治療方法であるため、その効果についてはまだ議論のある方法です。