低周波刺激をやったら、治らない?

以前の改訂で絶対にやってはいけないことの項目を追加したところ低周波刺激によるリハビリに関する質問が数多く寄せられました。鍼灸師の方など、実際に低周波刺激による治療を行っている方からの質問もありましたので、今回は少し違った角度から解説してみます。
 低周波刺激のことについて解説する前に、皆さんに知っておいて頂きたいことは、「同じ末梢性顔面神経麻痺という病名でも、治る患者さんは何もしなくてもよくなるし、神経の障害が高度な患者さんはいろいろな治療を試みても後遺症が残ってしまうことが多い」ということです。早期受診・早期治療が重要なのは言うまでもありませんが、それでも神経の障害が高度な患者さんは治りが悪く、軽度の方は治りが良いというのが現実です。ベル麻痺の場合、何も治療を行わなかった患者さんの治癒率は70%であったという報告があります。しかし、重症で治りが悪く、後遺症が残ってしまった場合でも、対症療法的な治療がありますので、後遺症の治療を参照してください。なお、神経の障害の程度(軽度か、高度か?)は、電気生理学的検査で判定することができます(「麻痺の検査」参照)。
 さて低周波刺激による治療・リハビリについてですが、電気刺激や低周波刺激による治療を受けた患者さんの中には、そのような治療を始めたら急によくなって、後遺症も残さず治ったという方もいると思います。そのような経験をお持ちの患者さんあるいは治療を行っている方から、電気・低周波刺激の治療を勧められることもあるかもしれません。しかし、ここで考えて頂きたいことは、後遺症も残さず治るということは、上で述べた何もしなくてもよくなる軽症の患者さんかもしれないということです。逆に顔面神経外来の患者さんで、重度の後遺症(病的共同運動=閉眼すると口の周りが動く・口を動かすと目が閉じるなど)で受診される方の中には、他院で低周波刺激による治療を受けた経験のある方が少なくありません。
 要するに、神経の障害が軽度な患者さんでは電気・低周波刺激をやらなくてもきれいに治り、神経の障害が高度な患者さんでは電気刺激や低周波刺激をすることによってかえって後遺症が目立つようになる可能性があるということです。
 また、末梢性顔面神経麻痺に対して低周波刺激が禁忌であることについては帝京大学のリハビリ科の栢森先生の論文(JOHNS Vol 16、455-460,2000)に書いてあります。栢森先生は日本顔面神経研究会(顔面神経の各種疾患を専門的に診療し、研究している医師の学会)で活躍されておりますが、その学会においても低周波刺激は禁忌という意見が大勢であり、当科でもそれに従っております。