麻痺のリハビリ

表情をつくる筋肉は皮筋といって骨に付着していないのが特徴です。骨に付着している骨格筋においては筋力の強化がリハビリテーションの目的となりますが、表情をつくる筋肉のリハビリテーションにおいては筋力の強化ではなく、後で述べる病的共同運動や顔面のひきつれ(過緊張)を予防することが目的です。ですから最も重要なのは、やりすぎない・(電気刺激・低周波などで)無理に動かさないことです。特に低周波マッサージによるリハビリは顔の筋肉を全て同時に動かすことにより、病的共同運動をさらに強くし、顔面のひきつれを重篤化させることが報告されています(「低周波刺激をやったら、治らない?」をお読みください)。
 ベル麻痺・ハント症候群において、リハビリが本当に必要なのは神経障害が高度な患者さんで、全体の2~3割程度です。神経障害がほとんどない患者さんはリハビリをやらなくても治癒するのです。ですから 運動訓練は神経障害がある程度存在する患者さんで「顔面が動き始める2~3か月目から」「後遺症である病的共同運動をできるだけおこさないように」行うのがポイントです。

 以下に当科で指導している内容を示しますが、リハビリの目的の中心はあくまで病的共同運動の予防ですので、やりすぎない・頑張りすぎない・無理に動かさないことが重要です。リハビリをやってもやらなくても神経再生には時間がかかるので、頑張ったからといって早く治るわけではなく、むしろ後遺症の可能性を大きくしてしまいます。

 急性期;特に最初の1~2週間は蒸しタオルなどで1日2回温めて血の巡りをよくすることを推奨しています。また、顔の筋肉の動きが出てくるまでの間は、筋肉の収縮方向に沿って手を使ったマッサージ(用手マッサージ)を5~15分程度・1日2回行います。これは筋肉の萎縮を防止するのが目的です。
 回復期;運動訓練を開始します。顔の筋肉が動き始めた時にまず気をつけることは、できるだけ目と口を一緒に動かさないようにゆっくり、軽く動かすことです。具体的には食事の時や話をする時など、口を動かす必要のある時にはなるべく意識して目を開くようにするとよいでしょう。顔の筋肉を動かす訓練も5~15分程度・1日に2回行いますが、その時も目と口が一緒に動いてしまうようでは強すぎるので、鏡を見ながらあるいは手で触れて動かないことを確認しながら行ってください。